痛い話
 ふとんをめくると不満そうに唸るから、わざと乱暴にはいでやった。それでもまだ起きないようなので軽く蹴り飛ばす。
「起きろよ」
「や、ぁだ。ねむいぃー」
 舌足らずに言って枕に顔をうずめる。
「仕事じゃねえの、おまえ」
「いきたくないよう」
「…仕事だろ」
 そりゃあ誰だっていきたくないだろう。
 好きでもないヤローのアレをしゃぶってつっこまれて、少なくとも自分の快楽なんて望むべくもなく、ただただ聞きたくもない声とか音とか、無理やりにつっこまれて。そんな仕事なんて誰が好んでするものか。
 死神の皆さんのためなんです?
 精神的な慰めになる仕事なのです?
 そう、俺たちはまったく合法的な、夜鷹の群ってワケだ。
   従軍慰安婦(俺の場合は何というのか)なんてくそくらえと思いながら逆らわずにヘラヘラ笑って帯を解く自分が、ああなんて嘆かわしいんだ。

「…いっそのこと殺してよ」

 少し目が覚めてきたのかがうんざりしたように手を伸ばす。
 ばかだなあ。
 ばかだよなあ。
 そんなこと出来るわけねぇのに、俺も、おまえも。


 いきたくないのはおたがいさまで、ひとりだけ苦しいのは嫌だからひっぱりこむ。
 布団からひきずりだして、布団の中におしこめる。


「ねー殺してー?」

 しょうがないから唇にかみついた。
 寝起きのせいか妙に熱くてやわらかかった。
 うすい皮膚が歯にひきさかれて、そこからまた、唾液に似た温度の塩辛いものが。離れるとは嬉しそうに笑って不自然に赤い唇をぺろりと舐めた。
 御伽噺じゃ死んだ女を起こすのはキスだって相場が決まってるらしいし、それなら逆もアリなんじゃねぇの、と思う。死体をよみがえらせるよりは、生きてるのを冷たくするほうがよっぽど簡単だ。そしてそれよりもずっとずっと、夜毎の仕事は簡単で、腐臭がする。


「殺されちゃった」
「…ばぁか」
「じゃあ次は修兵のこと殺してあげる」
「まだ夢ん中か、おまえ」


 夢の中なら次の瞬間俺は死ぬ。
 短銃のカタチを真似てが向ける指先から、見えない弾丸が胸を打ち抜いた。


 こんな風に俺たちは殺しあう。いつも。
04/07/07@sei

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