ルッテンベルグ師団の凱旋より半月。
 指揮官であるコンラートはいまだ目覚めない。いっそのことそのまま目覚めずにいたほうがどれほど楽だろうと、ヨザックは何度か考えた。そのたびに振り払う。悪い夢でも見たように。
 
 悪夢というのならばおおよそ十数日前までのすべてがそうだった。
 覚められずにいるものの中に、もまた、含まれている。
 
「聞こえるか」
「…少しはね」
 
 原因は、至近距離で大きすぎる音を聞き続けたため、だという。
 常人より少しばかり性能のいいの耳はその負荷に消耗してしまった。負担のない状況下にあればやがて回復するだろうというのが医師の見立てだったが、ヨザックにいわせれば、他に解決策が何もないから放り出されたようなものだ。
 とはいえまったくの見当違いというわけでもなく、たしかにの聴力は回復している。焦れるような早さであったとしても、そうして進んだ距離は無ではない。言い聞かせてヨザックは、また、半月前の夜のように叫びたいのを抑えている。
 
「それにしても、驚いた」
 
 ためいきと同じぐらいの軽さでが話す。自分の発する音がどの程度かつかめないから、会話に必要な声量がわからないのだ。聞き漏らさないよう注意しながらヨザックは次の言葉を待つ。
 
「まさか生き延びるなんて」
 
 抑揚のうすい今の彼女に、含みも真意も見つけようがない。
 どう解釈しようかと一瞬躊躇う間に、は、こんどはヨザックをはっきりと見据えながら続けた。
 
「私たち、悪運が強かったみたい」
「…生憎、俺は頭悪ィから、おまえの考えることなんてわかんねえよ」
 
 唇の動きをにらんでいたは「そうか」と呟いた。
 いくらか笑いを含んだ、表現力に乏しくても、たった今よこされた台詞を信じていないことだけは充分わかる、そんな声で。

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