軍属ともなれば直属の上官なんて、口うるさいと嫌がるか恐ろしがるかの二択で始まる関係だが、ごくまれに例外がある。そもそも眞魔国というのは、どういうわけだか階級が上になればなるほど見目のいい人物がやたら多いのだ。この例外の原因は、たぶん、本来もっと高い地位にあるべき男が、不相応な位に封じられたことだった。
 身分の区別なく言葉を使っていいのなら、かれと自分とをつなぐのは、忠誠心とか混血とかより、友情というたぐいのものなのだろう。それもとびきり密度の濃い。だからというわけではなかったが、世の中は上手く出来ているもので、腐れ縁といっても過言ではないような奇跡さえ簡単に起きる。
 たとえば、一方的に好意を抱く友人の、上官に納まっているとか。
 たとえば、その友人が、はがゆいほどつたない恋をしていたとか。
 誰になんて聞くまでもなかった。当人たちだけが感情の存在にさえ気づかない、そんな恋だった。あまりの幼稚さに笑ってしまう一方で、可愛らしくて踏みにじることができなかった。
 ヨザックは自分自身の感情に慎重に鍵を掛けて見えない場所にしまうことにした。
 きっちりと蓋を閉めて眠らせていれば、たとえどんなに膨らんで苦しんでも、いつかは消えてなくなるということを、彼はよく知っていたのだ。そんなものはただの綺麗なおとぎばなしだということも。
 もはやかわいらしい恋のできるほどの純粋さはない。
 登場人物は、誰も彼も、みんな、少しづつ病んでいる。
 ただ、大多数が知らないだけだ。
 
 
 幼いままでいられるわけがない。
 赤く汚れたタオルを処分しながら、まるでいいわけみたいだと、ヨザックは、たったひとりで笑った。
 

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