それならせめてさいごまで、

 

 

 いくんでしょう戦いに。やさしく微笑みながらが言う。あなたもあのひともみんなみんな同じことをするから、もう解ってしまった、戦いにいってそしてわたしにぜんぶ押し付けるんだね。

 違うそうじゃない俺はただ仕事を、そう職務に忠実であろうとするだけであって君を傷つけるつもりなんて欠片もない。瞬時に組み立てた弁解するための言葉はしかし、口にする前にもつれた。広すぎる部屋の隅でふたりで正座している。やけに喉が渇く。唾を飲むことさえためらう沈黙に結局は、違う、と呻くだけにとどまった。




「何が違う」
「俺はちゃんと帰ってくる」
「どうして。誰か、この世界にひとりだって、明日を手にしてるひとがいるって言うの」




 単純なものというのは、つまるところ最強の武装論理なのだろう。
 ごく小さい子供の「どうして」と同じぐらいの強さで、の問いは下手なごまかしを許さない。そう誰にも明日のことなど保障されていないのだ。来たるべくしてくるものは多いが、必ず来るものなど何一つない。明日が今日にならなければ誰にわかるだろう。生きることは難しくも容易くもなく、ただ不鮮明なだけだ。




「…明日になったら約束する」




 苦し紛れの言葉を先に吐きだす。ひとが話しているときはけして喋らない。どんな無謀な嘘っぱちであれ、きっちりと聞く
 きれいに微笑んだままの瞳がじっと凝視している。
 正座した姿勢は相変わらずぴんと張り詰めたままだ。

「俺は死なない。ひとりだけ残してくようなことはしない、絶対。抱えてるものを放り出すのはおまえより後だ。明日ちゃんと帰ってきたら、約束するから。それじゃだめか」

 語尾にかぶさるように懐から引き裂くような音が鳴り響いた。召集の合図だなんて確認しなくてもわかりきっている。逃げるように立ち上がる。
 視線を逸らすまでの一瞬にはたしかに笑っていて、真っ直ぐな姿勢を崩さないままだ。彼女はきっともうしばらく、この陰った場所にいるのだろう。
 何事も無かったような---実際数分の会話以上の何ものも俺たちは生産していない---声が背中にかかる。



「修兵、いってらっしゃい」




 あいかわらず優しい声を聞きながら思い知る。
 あいつは一ミリだって俺を信用しちゃいない。

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