めまいがした。
 エレベーターから降りた後のように、足が、自分でも気づかないうちにもつれていた。
 落ち着け。
 中学生じゃあるまいし、こんなことで取り乱すほど私は可愛い女じゃない。
 はじめてのことでもない。
 だから、大丈夫。冷静になれるから。動揺するな。
 実際のところ芭唐はとても綺麗なかたちをしている。
 頬のなめらかな、手の少し節ばったライン。年齢平均よりはだいぶひろい肩。見上げる角度。そういうなにもかもが、とても素敵なものに思えた。とりわけ私が好きだったのは背中で、全体重をもってしても潰されてくれない頑丈さが不思議で仕方なかった。触れ合って伝わる骨の感触に安心した。
 仕方がないのだろう。
 綺麗だ。泣きたいくらいに。
 他の誰かが、そういう芭唐に愛されたいと願っても、何もおかしいことはない。
 芭唐が他の誰かと街を歩いても何もおかしいことはない。
 手をつないでも。キスをしても。何も。
 しかたない、と呟いてみたら、その言葉の苦さにまた頭の芯が痺れた。
 
 
 積み重ねたことは、どんな速度のサイクルであれ繰り返される。私たちみたいに。
 
 
 
 
 
 
浮気?
何度目の?
あいしてる?
誰を?
 
 
 
 
 
 
「俺はおまえのこと好きだけど」
 
 
 おまえはどうなの、と芭唐は言外に問う。
 好きだから、別れたくないから、あんなものは見なかった。
 そうして無かったことにしていれば私はまた安心できたのだ。
 いままでと何も変わりないしあわせな未来を夢見ていられる。
 
 
「芭唐」
 
 
 だけど私たちはもうそろそろこの観覧車から降りてもいいころだ。
 

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