「寒いのは、よう慣れんねえ」
 白い息を川霧に溶かし込みながら、猪里が笑った。
「走って暖まっても、すぐ手が冷とうなる」
「つなごうよ」
 猪里は一瞬、きょとんと目をまるくして、それから慌てて首を横に振る。
「そんなに嫌がらなくても…」
 苦笑気味に言うに「何からかっとうね」と顔を背けた。耳が熱いのは寒さのせいだと言い聞かせながら。
「…おまえまで寒くしとったら、かなわなか」
 今度はが言葉に詰まる。
 それからゆっくりと笑って、ありがとう、と小さく言った。

 12月の埼玉は明け切らぬ早朝、季節は容赦なく冬だ。
 このひとの手が凍えてしまう。

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